論文紹介:航空機から飛び降りた際の死亡や重大損傷を防ぐパラシュートの使用について:無作為化比較試験

[耳チーム] 今回紹介した論文は、RCT(Randomized Controlled Trial:無作為化比較試験)について、痛烈な皮肉を交えてその脆弱性を説いた論文です。

臨床疫学ではRCTは「最も信頼性が高い」と言われています。(1)同じ母集団を2群に分け、(2)新規治療法と従来法を比較し、(3)新規治療の優位性が統計学的有意差を持って示せれば、その論文は医療を劇的に変える根拠になります。本論文では、「パラシュート使用が航空機から飛び降りた際に死あるいは重大損傷を抑制出来るか?」について検討しました。(1)RCT賛同者を2群に分け、(2)パラーシュート使用群とリュックサック使用群を比較し、(3)パラシュート群が有意にリュックサック群に比して有意に死あるいは重大損傷を抑制出来たか?について比較しました。RCT非参加者は全員、平均時速800km平均高度9000mのジェット機搭乗者でした。RCT参加者は全員、平均時速0m平均高度0.6mつまり地上に固定された航空機から飛び降りました。RCT参加者は2群にランダム化されパラシュートあるいはリュックサックを背負って航空機から飛び降りました。着地後の死あるいは重大損傷を来した人は、パラシュート群0人、リュックサック群0人で有意差を認めませんでした。本研究によって、パラシュートは死や重大損傷を有意に抑制しないことが証明されました。「地上に固定された航空機から飛び降りる」という条件下でしか参加者を集められなかったことが本研究の弱点であり、今後はより高い高度での検証が必要であろうと結論づけています。

既存の(治療)方法があまりにも信頼が高い場合、それを逸脱する介入に参加する被験者そのものにバイアスがかかりやすいことを分かりやすく示した論文です。クリスマス特集のおふざけ論文なだけに、ユーモアたっぷりの表現で最後まで楽しんで読めます。興味のある方は是非本文を隅々まで読んでみて下さい。

Parachute use to prevent death and major trauma when jumping from aircraft: randomized controlled trial

Robert W Yeh, associate professor, Linda R Valsdottir, research coordinator, Michael W Yeh, professor, Changyu Shen, director, Daniel B Kramer, assistant professor, Jordan B Strom, instructor, Eric A Secemsky, instructor, Joanne L Healy, administrative manager, Robert M Domeier, expert skydiver and clinical instructor,Dhruv S Kazi, associate director, and Brahmajee K Nallamothu, professor, on behalf of the PARACHUTE Investigators

BMJ. 2018; 363: k5094. doi: 10.1136/bmj.k5094

PMID: 30545967

投稿者:松本 有/ENT-HP1