当教室の研究関連のニュースをお伝えします。

2023年

3月

第19回姿勢と歩行研究会 奨励賞(アニマ賞)を受賞

当教室の一條医師が第19回姿勢と歩行研究会 奨励賞(アニマ賞)を受賞しました。

一條研太郎「持続性知覚性姿勢誘発めまい患者の前庭機能が立位体平衡に及ぼす影響」

2月

モルモット前庭障害に対する7, 8-Dihydroxyflavone経口投与の治療効果

脳由来神経栄養因子BDNFは、特異的受容体TrkBを介した種々の作用により、多くの神経変性疾患に対する治療効果が示されていますが、めまい・ふらつきを来す前庭障害に対しては、血液内耳関門が障壁となり臨床応用が困難となっています。7, 8-Dihydroxyflavone (DHF) は、BDNFと同様の作用を有し、低分子量であるため血液脳関門を通過可能な薬剤です。成熟モルモットに内耳毒性のあるゲンタマイシンを局所投与し前庭障害動物を作製し、DHFを連日28日間経口投与したところ、前庭にある半規管有毛細胞数、膨大部神経密度、有毛細胞-膨大部神経間のシナプス数について、それぞれ擬似薬を投与した群よりも有意な上昇を認め、さらに半規管機能の改善がみられました。本研究結果は、DHFの経口投与がめまい・平衡障害に対する新しい治療法と成り得ることを示唆します。

Kinoshita M, Fujimoto C, Iwasaki S, Kondo K, Yamasoba T. Oral Administration of TrkB Agonist, 7, 8-Dihydroxyflavone Regenerates Hair Cells and Restores Function after Gentamicin-Induced Vestibular Injury in Guinea Pig. Pharmaceutics. 2023 Feb 2;15(2):493. doi: 10.3390/pharmaceutics15020493. PMID: 36839815; PMCID: PMC9966733.

1月

誤嚥防止手術により患者・家族のQOLが改善

当科において重度嚥下障害に対して誤嚥防止手術を施行した100症例を対象に、術後状況について後方的検証を行いました。すべての症例において重篤な合併症を認めず、手術成功していました。誤嚥防止手術によって、患者の経口摂取状況が改善し介護者の吸引回数が軽減するなど、患者・介護者のQOL向上に有効でした。
重度嚥下障害の患者さんで、経口摂取と吸引回数の軽減を希望される方がおられましたら、当科に是非ご紹介ください。

Koyama M, Ueha R, Sato T, et al. Aspiration Prevention Surgery: Clinical Factors Associated With Improvements in Oral Status Intake and Suction Frequency [published online ahead of print, 2023 Jan 19]. Otolaryngol Head Neck Surg. 2023;10.1002/ohn.183. doi:10.1002/ohn.183 PubMed

2022年

10月

動物モデルを用いた新型コロナウイルス感染者への短期濃厚接触による感染波及の証明

シリアンハムスターを用いて新型コロナウイルス(SARS-CoV2)感染者との短期濃厚接触で感染が波及するかどうか、経時的な検証を行いました。感染動物と30分間同居させたハムスターは3日後には感染兆候を認めませんでしたが、7日後には肺や鼻腔でウイルスが増殖しており、嗅神経上皮障害を生じていました。感染者との短期濃厚接触により、約1週間後に感染所見を認めることを実証しました。

Ueha R, Ito T, Ueha S, et al. Evidence for the spread of SARS-CoV-2 and olfactory cell lineage impairment in close-contact infection Syrian hamster models. Front Cell Infect Microbiol. 2022;12:1019723. Published 2022 Oct 21. doi:10.3389/fcimb.2022.1019723 PubMed

9月

マウスの騒音性難聴および加齢性難聴に対するピロロキノリンキノンの効果

酸化還元酵素補酵素であるピロロキノリンキノン(PQQ)の、マウスにおける騒音性難聴および加齢性難聴(NIHLおよびARHL)における予防効果を検討し、生理学的および組織学的評価により、PQQの聴覚系での保護効果が示されました。NIHLモデルでは、PQQ投与マウスはコントロールと比較して、8kHzにおける聴性脳幹反応(ABR)閾値の上昇が有意に減少し、基底回転における有毛細胞数・内有毛細胞下のリボンシナプスは有意な保護が見られました。ARHLモデルでは、PQQ投与マウスはコントロールと比較して、生後10か月での8, 32 kHzでのABR閾値上昇が有意に減少し、有毛細胞・らせん神経節細胞・リボンシナプス・血管条・神経線維は有意な保護が見られました。

Gao, Y., Kamogashira, T., Fujimoto, C. et al. Effects of pyrroloquinoline quinone on noise-induced and age-related hearing loss in mice. Sci Rep 12, 15911 (2022). https://doi.org/10.1038/s41598-022-19842-w

6月

リポカリン15はにおいを感じる嗅粘膜の粘液に特異的に豊富に含まれるタンパク質で、加齢により減少する

ヒトの嗅覚を司る嗅粘膜の表面を覆う嗅粘液に含まれるタンパク質を網羅的に解析したところ、疎水性分子の物質輸送に関わるリポカリンファミリータンパクの1つであるリポカリン15(LCN15)が多量に含まれていることを見出しました。また、LCN15の嗅粘液中の濃度が加齢により減少することを明らかにしました。さらに、LCN15は嗅粘膜にある分泌腺であるボウマン腺で産生・放出されており、嗅粘膜以外の鼻粘膜には分布しておらず、嗅粘膜の組織中のLCN15の分布は嗅神経細胞の分布量と相関がありました。嗅粘液は嗅覚受容に重要な役割を果たしていますが、本研究はヒト嗅粘液中の物質の産生のしくみを明らかにした初めての研究であり、今後、ヒトの嗅覚受容のしくみの解明に貢献できると期待されます。また、嗅粘液中のLCN15の濃度測定は嗅粘膜の変性をモニターする臨床検査としての役割が期待されます。本研究成果は、2022年6月24日(英国夏時間)に英国科学誌「Scientific Reports」のオンライン版に掲載されました。(プレスリリース)

Ijichi, C., Kondo, K., Kobayashi, M. et al. Lipocalin 15 in the olfactory mucus is a biomarker for Bowman’s gland activity. Sci Rep 12, 9984 (2022). https://doi.org/10.1038/s41598-022-13464-y

4月

ミトコンドリア脳筋症の長期的な聴力経過、人工内耳の有効性について報告

ミトコンドリア脳筋症は多くがミトコンドリアDNAの異常により生じ、特に3243位点変異では変異の割合が多いと脳卒中様症状が特徴的なMELAS(mitochondrial myopathy, encephalopathy, lactic acidosis, and stroke-like episodes)を、変異が少ないと母遺伝性糖尿病-難聴症候群 (MIDD)を来たし、どちらも感音難聴を来たします。この難聴は後天性に生じることがほとんどで、徐々に進行することが知られていますが、その詳細は不明でした。今回、平均13年にわたってこの遺伝子変異を持つ患者の聴力経過を調べた結果、約半数で急性に聴力が悪化して聾になり、急性悪化の無い人および急性悪化した人の悪化前の難聴の進行速度は約2.5dBであること、変異率が高いほど難聴の出現時期は早いが難聴の進行速度とは関係が無いことがわかりました。急性増悪した時には副腎皮質ステロイドは無効でした(1)。両側聾になった場合には人工内耳が長期的にも有効でありましたが、最長13年まで経過観察したところ、一部の患者では語音明瞭度が徐々に悪化することも明らかになりました(2)。

1)Sakata A. et al. Long-Term Progression and Rapid Decline in Hearing Loss in Patients with a Point Mutation at Nucleotide 3243 of the Mitochondrial DNA. Life 12 (4), 543, 2022

2)Kanemoto K, et al. Cochlear Implantation in Patients with Mitochondrial Gene Mutation: Decline in Speech Perception in Retrospective Long-Term Follow-Up Study. Life 12 (4), 482, 2022

4月

ピロロキノリンキノン(PQQ)によるHEI-OC1細胞のストレス誘導性老化モデルにおけるミトコンドリア機能保護効果

酸化還元酵素の補酵素であるpyrroloquinoline quinone(PQQ)のHEI-OC1細胞における過酸化水素ストレス誘導性早期老化モデルに対する効果を検討し、保護効果を示しました。早期老化モデルでは、ミトコンドリア呼吸能力が障害されていましたが、PQQ(0.1 nMまたは1.0 nM)で前処理した細胞では保護が見られ、ミトコンドリア電位、ミトコンドリア融合、ミトコンドリアの動きの改善が見られました。また,早期老化モデルでsirtuin 1(SIRT1)およびperoxisome proliferator-activated receptor gamma coactivator-1α(PGC-1α) のタンパク質発現は有意に減少しましたが、PQQ処理により増加し、PGC-1αのアセチル化は有意に減少しました。これらのことから、PQQはHEI-OC1細胞の早期老化モデルに対して保護作用を有し、SIRT1/PGC-1αシグナル経路、ミトコンドリア構造およびミトコンドリア呼吸能に関連することが示唆されました。

Gao, Y., Kamogashira, T., Fujimoto, C. et al. Pyrroloquinoline quinone (PQQ) protects mitochondrial function of HEI-OC1 cells under premature senescence. npj Aging 8, 3 (2022). https://doi.org/10.1038/s41514-022-00083-0

4月

嗅粘膜の迅速蛍光イメージング

嗅覚機能検査は、被験者の主観的な匂いの認知感覚に依存した検査方法のみであり、嗅覚の機能を客観的に評価できる方法はありません。また嗅覚障害患者の嗅粘膜の組織解析では、嗅上皮が無神経化や呼吸上皮化生を起こすと報告されていますが、実際の臨床において嗅粘膜の組織生検を行うことはできません。
今回、鼻の粘膜の中で嗅粘膜のみを特異的に描出し、障害を客観的に評価をすることのできる分子を同定しました。この分子を将来的にヒトに応用しプローブとして使うことができれば、内視鏡での観察により嗅粘膜の状態を客観的に評価できるようになり、嗅覚障害の病態解明につながります。また嗅粘膜を直接可視化できるようになることは、耳鼻咽喉科診療で行われている内視鏡下鼻副鼻腔手術や頭蓋底手術等での有用性も期待されます。(Nishijima H, et al. iScience. 2022プレスリリース

4月

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染モデルにおける脳の変化 〜COVID-19 による病態解明や治療法開発の加速に期待〜

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症によって引き起こされる症状は嗅覚障害や呼吸困難が有名ですが、認知機能の低下や頭がぼーっとするといった”Brain fog”などの中枢神経症状も報告されています。近年、ヒト脳MRI研究からSARS-CoV-2感染後の脳構造が変化することも知られていますが、細胞レベルで脳にどのような変化が生じているかは不明でした。今回、SARS-CoV-2感染後のシリアンゴールデンハムスターの嗅上皮と脳の組織を解析し、嗅上皮での嗅神経細胞と炎症細胞、脳での炎症細胞やシナプスの形態変化を明らかにしました。本研究の成果は、SARS-CoV-2感染による嗅覚障害だけでなく中枢神経症状の病態解明や治療シーズ開発を加速させると期待されます。(Kishimoto-Urata M, Urata S, et al. Sci Rep. 2022プレスリリース

3月

日本アレルギー学会「サノフィ優秀論文賞」を受賞

当教室の籠谷医師が日本アレルギー学会「サノフィ優秀論文賞」(一般部門)を受賞しました。

A murine model of eosinophilic chronic rhinosinusitis using the topical application of a vitamin D3 analog, Kagoya R. et al., Allergy. 2021;76(5):1432-1442.

2021年

10月

日本耳科学会賞を受賞

当教室の樫尾医師が第4回日本耳科学会賞を受賞し、第31回日本耳科学会総会・学術講演会で受賞講演を行いました。

樫尾 明憲「人工内耳手術における画像を用いた術前プランニングおよび予後予測に関する研究」

9月

腫瘍血管における粒子噴出現象は血中を循環する粒子及び細胞に汎用的な血管透過経路を提供する

がん(腫瘍)に効率的に薬剤を届けることは、より良い治療薬を開発する上で必要不可欠です。2016年に初めて報告された、がんの血管においてナノメートル (nm)の粒子が血管外に向かって噴出する現象は、薬剤送達の効率化に繋がると期待されています。今回我々は、既にこの現象で輸送されることが分かっているデキストランと言う粒子を基準とし、同時に別の粒子を静脈から注射することで、マウスのがんにおいてどのような粒子がこの現象を活用できるのか、どのような大きさの孔を介して噴出が起きているのかを解析しました。結果、これまで知られていた100 nm以下の一部の粒子に限らず、1000 nmの粒子も、血小板のような細胞も、抗PD-1抗体のような臨床的に使われている抗体薬も、幅広くこの現象を活用できることが明らかになりました。孔の大きさは625 nm以上、一部は数千ナノメートルと、がんの血管に数分程度で一過性に形成されるものとしては、想定されていたよりも大きな孔が動的に生じることが分かりました。これらの結果は、がんの血管における粒子の噴出現象を活用した薬剤設計において役立つものであり、また腫瘍微小環境における細胞動態の理解に貢献することが期待されます。

 

Vascular Bursts Act as a Versatile Permeation Route for Blood-Borne Particles and Cells, Igarashi K. et al., Small. 2021 Sept 15. doi: 10.1002/smll.202103751.

6月

日本抗加齢医学会総会で受賞

2021年6月の第21回日本抗加齢医学会総会で、当教室の鴨頭医師が、優秀演題賞を受賞しました。

鴨頭 輝「加齢性難聴モデルにおけるピロロキノリンキノン(PQQ)の保護効果」

5月

活性型ビタミンD3アナログを用いた好酸球性副鼻腔炎モデル

酸球性副鼻腔炎は、好酸球浸潤を伴う鼻茸や嗅覚障害などの特徴を有する鼻副鼻腔の慢性アレルギー性疾患で、環境因子と遺伝的因子に基づいて起こる複数の免疫応答により形成されると考えられています。病態に寄与しうる複数の要素を組み合わせたマウスモデルが2010年頃より報告されていますが、標準的に広く使用されるモデルはまだありません。近年、好酸球性副鼻腔炎の病態生理における自然型アレルギーの関与が様々な研究成果から示されています。一方、上皮サイトカインの1つであるTSLPがIgE非依存性に好塩基球を活性化し自然型アレルギーの起点となる「TSLP-好塩基球反応軸」と呼ばれる免疫応答の重要性が指摘されています。私達はこのTSLP-好塩基球反応軸に着眼し、活性型ビタミンD3アナログ塗布により皮膚で多量のTSLPを誘導して好塩基球を活性化し、重度の好酸球性炎症をマウスの鼻副鼻腔に起こすモデルを確立しました。本モデルでは、鼻腔粘膜下の好酸球浸潤のみならず好塩基球浸潤や嗅上皮傷害というヒトの好酸球性副鼻腔炎の特徴を反映しており(図)、好酸球性副鼻腔炎に伴う様々な病態を解明する一助になると期待されます。

A murine model of eosinophilic chronic rhinosinusitis using the topical application of a vitamin D3 analog, Kagoya R. et al., Allergy. 2021;76(5):1432-1442.

4月

ゴールデン・シリアン・ハムスターにおけるSARS-CoV-2感染後の嗅覚上皮の再生プロファイル

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)によって引き起こされるCOVID-19の嗅覚障害があります。初期症状の1つとして知られているだけでなく、発症後約2か月経過しPCRが陰性化した方の18~45%で何らかの嗅覚障害が残存していることも明らかになっています。一般的に傷害された嗅上皮(鼻の奥にある匂いを感知する部位)は一度脱落し菲薄しますが、再生して正常厚に戻りますが、傷害が重度の場合、嗅上皮は正常化しないことが知られています。SARS-CoV-2が嗅上皮に感染した場合、嗅上皮が脱落することがわかっていましたが上皮厚が正常化するかは不明でした。今回、テキサス大学医学部ガルベストン校研究グループとの共同研究で、SARS-CoV-2ウイルス量に関わらず、感染が成立すると感染後数日で広範囲にわたって嗅上皮が脱落し、大部分の嗅上皮は感染後21日で正常厚になることを見出しました。(1)(2)

S Urata, et al. Regeneration profiles of olfactory epithelium after SARS-CoV-2 infection in golden Syrian hamsters. ACS chemical neuroscience 12 (4), 589-595, 2021

2月

c-MYCの発現量が異なる腫瘍に対するpH感受性ナノメディシンの有効性は、腫瘍内の活性化プロファイルに依存する

私達は、抗癌剤を包んだナノ粒子(ミセル)によるドラッグデリバリーの研究を行っております。ミセルは直径が30-100 nmで、薬剤を内包したカプセルのようなものです。癌の血管は病的で多数の孔があいており、ミセルを静脈内投与すると腫瘍組織に浸透・蓄積するEPR効果が得られます。一方で、ミセルは正常組織に入り込むことはできません。これにより、効果的な制癌作用と、正常組織に対する副作用の回避が見込めます。今回、我々は間接的c-Myc阻害薬であるJQ1を内包したミセルを開発しました。また、腫瘍周囲環境は酸性であることが知られており、このミセルには酸性側pHに反応して薬剤をリリースする機能を搭載しました。さらに薬剤結合部に細工をすることで、薬剤を素早くリリースするミセルと、ゆっくりリリースするミセルを開発しました。これらのミセルを担癌マウスに投与したところ、c-Myc高発現癌には素早くリリースするミセルで、一方でc-Mycが低発現癌にはゆっくりリリースするミセルで、制癌作用が高いことがわかりました。つまり、癌のc-Myc発現量を解析すれば、より適切なリリース形態のミセルを選択して治療することができます。この結果により、機能的ミセルを用いたテーラーメード医療の発展への可能性を示しました。

Efficacy of pH-Sensitive Nanomedicines in Tumors with Different c-MYC Expression Depends on the Intratumoral Activation Profile, Shibasaki H. et al., ACS Nano. 2021 Feb 24. doi: 10.1021/acsnano.1c00364.

2020年

7月

  • 好中球の嗅覚神経上皮における神経支持能を有する非定型Ly6G + SiglecF +免疫細胞への変換

嗅上皮は多様な物に曝される事が必要かつ不可避な器官でありながら、神経ニューロンを通じて脳血液関門を経ずに中枢神経(脳)に直結し、病原生物・毒物の中枢神経への短絡路となっています。昨今猛威を振るう新型コロナウイルスも嗅覚障害を起こし、嗅上皮を通じて深刻な中枢神経障害を起こすことが報告されています。
中枢神経防御と嗅覚を両立するため、嗅上皮は神経組織としては例外的に高い再生能を持つことが知られており、その免疫機構も特殊であることが予想されますが、これまで嗅上皮の免疫学的解析は殆ど行われてきませんでした。
今回、我々はマウスの鼻の組織学的部位ごとのフローサイトメトリーを行い、嗅上皮にのみ存在する免疫細胞を発見しました。この細胞は好中球の表面マーカーLy6Gと好酸球の表面マーカーSiglecFをともに発現しますが、好中球・好酸球のいずれとも異なる細胞像・表面マーカーパターンを示し、鼻炎・嗅上皮傷害時に好中球に遅れて著増しました。Congenicマウスの解析により、この細胞は鼻腔に浸潤した好中球が変化したものであることが分かりました。RNA-seqによる遺伝子発現の網羅的解析により、この変化の過程で炎症関連遺伝子の発現が下がり、一部の神経再生に関与する遺伝子の発現が高くなることが分かりました。好中球は、感染などの侵害に迅速に対応するため、その機能に必要なタンパクを予め揃え分化を終えた状態で末梢血や組織に存在すると考えられてきましたが、本報告の結果は、好中球がその古典的常識と異なり分化能を有し、嗅上皮においては神経再生にも寄与している可能性を示しています。

Conversion of neutrophils into atypical Ly6G+SiglecF+ immune cells with neurosupportive potential in olfactory neuroepithelium, Ogawa, K et al. J Leukoc Biol. 2020 Jul 29. doi: 10.1002/JLB.1HI0620-190RR.

  • 多系統萎縮症の食道運動障害

多系統萎縮症(multiple system atrophy: MSA)は、自律神経障害、錐体外路系、小脳系の3系統の病変・症候がさまざまな割合で出現する進行性の神経筋疾患ですが、食道運動への影響についてはあまり知られていません.我々は、MSAにおける自律神経障害として食道運動障害に注目し、MSAでは食道運動障害が高頻度で生じることを明らかにしました。高解像度嚥下圧検査で調査すると、経口摂取が可能なMSA患者であっても、半数以上に嚥下時の頸部食道圧の異常亢進(abnormal deglutitive proximal esophageal contraction:ADPEC)を認めました(Front Med, 2018)。さらに、経口摂取が可能なMSA患者を対象に食道造影検査で食道全体の運動を評価すると、食道内逆流や食道内停留をほぼ全症例に認め、対照例と比較して明らかに食道運動障害の発生頻度が高く、疾患の重症度がADPECに有意な関連を認めました(Laryngoscope,2020)。食道咽頭逆流による嘔吐・窒息等が生じうることから、MSAの食道運動障害に十分注意すべきと考えます。

MSA患者の嚥下時頸部食道圧異常亢進

Esophageal dysmotility is common in patients with multiple system atrophy, Ueha R et al. Laryngoscope 2020, DOI: 10.1002/lary.28852.

High resolution manofluorographic study in patients with multiple system atrophy: possible early detection of upper esophageal sphincter and proximal esophageal abnormality, Ueha R et al. Front Med (Lausanne). 5:286, 2018.

  • メニエール病の動物モデルにおける内耳のライブイメージングと機能変化

メニエール病は誘因なくめまい発作(持続時間は10分程度から数時間程度)を反復し、めまいに伴って難聴,耳鳴,耳閉感などの聴覚症状が変動する疾患であり、近年の画像診断では内リンパ腔が拡大する内リンパ水腫の存在が指摘されているが、発作の原因や機序は不明である。我々は、内リンパ嚢を電気焼灼後にバゾプレッシンタイプ2受容体アゴニストを投与してメニエール病の発作症状(眼振、体平衡異常、低音優位の難聴)を示す動物モデルを作成した。このモデルの蝸牛内部構造をoptical coherence tomographyを用いて視覚化したところ、急性期には内外リンパ腔を境するライスネル膜が破裂なく膨隆し(内リンパ腔の圧が上がり)、その形態変化が機能変化の時間経過と一致することを観察した。この結果は、内リンパ嚢機能不全にバゾプレッシン亢進が加わることで内リンパ水腫が急性に生じ、膜迷路の破綻がなくても症状が引き起こされることを示している。

バゾプレッシン注射後のライスネル膜の位置の変化

バゾプレッシン注射後の内リンパ腔の大きさの変化

Kakigi, Akinobu et al. “Live imaging and functional changes of the inner ear in an animal model of Meniere’s disease.” Scientific reports vol. 10,1 12271. 23 Jul. 2020, doi:10.1038/s41598-020-68352-0

5月

  • 機械学習による重心動揺検査データからの前庭機能障害の予測について

本研究では、平衡機能障害の精査の一つとして広く評価に使用されている重心動揺検査の当院めまい外来における検査データセットを使用して、検査データから末梢前庭機能障害を予測判定する際の様々な機械学習アルゴリズム(Gradient Boosting Decision Tree、Bagging Classifier、Logistic Regression、Neural Network等)を評価した。検証と比較は、ROC (Receiver Operating Characteristic)のAUC (Area Under the Curve)とrecallをK分割交差検証で行った。Gradient Boosting Decision Treeは検証したアルゴリズムの中でAUC、recall共に最も高く、Logistic Regressionよりも有意に高かった。

Kamogashira T, Fujimoto C, Kinoshita M, Kikkawa Y, Yamasoba T and Iwasaki S. Prediction of Vestibular Dysfunction by Applying Machine Learning Algorithms to Postural Instability, Front. Neurol., 05, 2020

1月

  • 声帯麻痺による声帯筋萎縮に対し、bFGFの局所注射が改善効果を示す

声帯麻痺による嗄声に対する治療として、外科的治療(喉頭枠組み手術や声帯内注入術)が一般的に行われています。しかし、それらの治療によっても十分に嗄声が改善しない症例が散見され、一因として麻痺による声帯筋の萎縮が考えられます。
そこで、私たちのグループでは筋再生作用が報告されているbFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)に着目しました。ラットを用いた声帯麻痺動物モデルを作成し、麻痺後1か月目に高用量(2000ng)のbFGFを麻痺声帯筋に局所注射することで、筋衛星細胞を賦活化し、投与後1か月後にはcontrol群(生理食塩水注入群)に比べ、有意に声帯筋萎縮が改善されることを示しました。
bFGFの麻痺声帯筋への局所注射は、声帯麻痺に対する新たな治療法として期待されます。

Goto T, Ueha R, Sato T, Fujimaki Y, Nito T and Yamasoba T, Single, high‐dose local injection of bFGF improves thyroarytenoid muscle atrophy after paralysis, Laryngoscope, Jan;130(1):159-165. 2020.

2019年

10月

  • 半規管有毛細胞の再生過程におけるMusashi1の細胞内局在変化

めまい・ふらつきの原因は様々ですが、その多くは前庭(半規管、耳石器)の有毛細胞障害をきたしており、有毛細胞の再生機序を解明することがめまいの治療に重要と考えられています。哺乳類の前庭有毛細胞の再生機序として支持細胞の細胞分裂と形質転換が想定されていますが、一定の見解が得られていません。
我々は、有毛細胞再生機序の解明にむけて、非対称性細胞分裂や神経の発生・再生を制御するNotchシグナルに関わるMusashi1(Msi1)に注目しました。モルモットの半規管有毛細胞をゲンタマイシンで障害すると、残された支持細胞内で発生期と類似したMsi1の局在変化が起こり、再生初期と考えられる有毛細胞マーカーMyosin7aとMsi1が共に陽性となる細胞を伴って、有毛細胞が再生する様子を確認しました。細胞分裂マーカーBrdUを用いた実験や各細胞数の変化をカウントした実験においても、有毛細胞の再生に支持細胞の非対称性分裂が関与することを示唆する結果が得られました。本研究結果より、Msi1による支持細胞の分化誘導制御が前庭機能障害の治療戦略の1つと成り得るものと考えられます。

ゲンタマイシン障害後のMsi1局在変化と有毛細胞再生様式の概念図

Alteration of Musashi1 Intra-cellular Distribution During Regeneration Following Gentamicin-Induced Hair Cell Loss in the Guinea Pig Crista Ampullaris,
Kinoshita M, et al. Front Cell Neurosci. 2019 Oct 25;13:481. doi: 10.3389/fncel.2019.00481.

6月

  • 喫煙と加齢による嗅覚と嗅神経上皮への影響

嗅覚に影響を与える環境要因の代表的な因子として,外因性の「喫煙」や「炎症」,内因性の「加齢」が挙げられます。
私たちのグループは,タバコ煙による嗅神経上皮障害の背景の機序(嗅覚前駆細胞の低下と炎症性サイトカインの上昇)や,障害された嗅神経上皮の再生過程へのタバコ煙による抑制的な機序(嗅覚前駆細胞の分裂・分化の障害とIGF-1の低下)を明らかにしました。また,加齢によって成熟嗅神経細胞が減少することや,若齢と比較して遺伝子発現が大きく異なることを解明しました。さらに,加齢と喫煙が嗅神経上皮に作用すると嗅神経細胞の細胞死が亢進し,その効果は長期にわたり持続しました。
つまり,嗅覚に影響する因子が重なることで嗅神経上皮に不可逆なダメージが生じやすいことが示唆されます。詳細はこちら(pdf)でご確認ください。

Rumi Ueha.

Molecular mechanism of smoking smell and elucidation of regeneration environment of olfactory epithelium.

Impact, Volume 2019, Number 6, June 2019, pp. 68-70(3).

5月

  • ヒトパピローマウイルス(HPV)関連中咽頭がんのゲノム・エピゲノム異常を解明

Nature Communications誌に新たな論文が掲載されました。

ヒトパピローマウイルスが引き起こす中咽頭がん(HPV関連中咽頭がん)は若年者に生じ、患者数の増加が著しいことから、その克服が大きな課題となっています。今回の研究では、HPV関連中咽頭がんのゲノム・エピゲノムの全体像を解析しました。その結果、DNAメチル化と抑制性ヒストン修飾という代表的なエピゲノムの変化が、がん組織の遺伝子転写開始点に集中して生じることを明らかにしました。また、DNAメチル化が高度ながん組織ではMyc経路の活性化が起こっていることを見出しました。これらの成果は、治療の最適化の実現に役立つものと期待されます(詳細はこちら)。

Mizuo Ando, Yuki Saito, Guorong Xu, Nam Q. Bui, Kate Medetgul-Ernar, Minya Pu, Kathleen Fisch, Shuling Ren, Akihiro Sakai, Takahito Fukusumi, Chao Liu, Sunny Haft, John Pang, Adam Mark, Daria A. Gaykalova, Theresa Guo, Alexander V. Favorov, Srinivasan Yegnasubramanian, Elana J. Fertig, Patrick Ha, Pablo Tamayo, Tatsuya Yamasoba, Trey Ideker, Karen Messer & Joseph A. Califano.

Chromatin dysregulation and DNA methylation at transcription start sites associated with transcriptional repression in cancers.

Nature Communications volume 10, Article number: 2188 (2019).

1月

  • 組織透明化と機械学習を組み合わせた内耳の全感覚細胞のアトラス作成

eLife誌に新たな論文が掲載されました。

ヒトが音を聴くには内耳の中にあるコルチ器で音の振動を有毛細胞と呼ばれる感覚細胞が感知する必要があります。コルチ器には特定の周波数に反応する有毛細胞が数千個整然と配列していますが、これらの多数の細胞の性質を網羅的に解析する手法はありませんでした。我々は、組織透明化による全有毛細胞の可視化と機械学習による全細胞の検出プログラムを組み合わせることにより、コルチ器内の全ての有毛細胞の騒音や加齢による障害を自動的に解析する技術を開発しました。この方法を利用することで、コルチ器への障害の性質によって、異なったパターンで有毛細胞の障害が出現することがわかりました。本研究の成果を今後活用することで、多くの高齢者を悩ます老人性難聴といった病態の解明やそれに基づく治療戦略の開発が加速すると期待されます(詳細はこちら)。

Shinji Urata, Tadatsune Iida, Masamichi Yamamoto, Yu Mizushima, Chisato Fujimoto, Yu Matsumoto, Tatsuya Yamasoba, and Shigeo Okabe.

Cellular cartography of the organ of Corti based on optical tissue clearing and machine learning

eLIFE 2019;8:e40946. Published online 2019 Jan 18.

2018年

12月

  • 長期の自発運動あるいはカロリー制限は嗅覚システムに悪影響を与える

Scientific Reports誌に新たな論文が掲載されました。

 自発運動負荷、カロリー制限は多くの臓器において酸化ストレスの軽減によって健康の保持・増進に深い関わりを持つ。嗅上皮は直接外界からの有害刺激に暴露されているため、嗅上皮特有の防御システムが存在している。しかし、嗅覚系において運動負荷やカロリー制限下でもこの防御システムが正常に作用し、正の効果を有するかどうかは不明であった。10か月間の自発運動やカロリー制限群のマウス蝸牛では、頂回転での外有毛細胞ならびにらせん神経節細胞数の加齢による減少が抑制され、聴覚系に対しては正の効果をもたらしていた。しかし、驚いたことに嗅覚系においては、自発運動やカロリー制限は負の効果をもたらし、背側領域の嗅上皮が障害を受けていた。この障害には、酸化還元酵素であるキノンの酵素活性が関わり、過剰な活性酸素の産生が嗅上皮障害をもたらしたと考えられた。(詳細はこちら

Tuerdi A, Kikuta S, Kinoshita M, Kamogashira T, Kondo K, Iwasaki S, Yamasoba T.
Dorsal-zone-specific reduction of sensory neuron density in the olfactory epithelium following long-term exercise or caloric restriction.
Scientific Reports 2018; 8(1), 1-16.

11月

  • 日本めまい平衡医学会で受賞

 2018年11月28日-30日に山口市で行われた第77回日本めまい平衡医学会総会・学術講演会において、当教室の吉川医師がポスター賞を受賞しました。

第77回日本めまい平衡医学会ポスター賞
演題名:一側半規管機能障害患者の立位時のふらつきを規定する因子についての検討
演者:吉川 弥生, 岩﨑 真一, 木下 淳, 菅澤 恵子, 江上 直也, 西 敏子, 藤本 千里, 山岨 達也

  • 日本医師会研究奨励賞を受賞

 2018年11月の日本医師会設立記念医学大会で、当教室の菊田医師が、平成30年度日本医師会研究奨励賞を受賞しました。

菊田 周「嗅上皮障害後の修復過程におけるインスリンの役割の解明」

10月

  • 米国鼻科学会で受賞

 2018年10月5-6日に米国アトランタで行われた64th American Rhinologic Society Annual Meetingにおいて、当教室の上羽医師がポスター賞(一等)を受賞しました。

64th American Rhinologic Society Annual Meeting
First Place in the Poster competition
Rumi Ueha, Kenji Kondo, Syu Kikuta, Tatsuya Yamasoba.
Title: Cigarette smoke-induced cell death causes persistent olfactory dysfunction in aged mice.

  • 日本耳科学会で受賞

 2018年10月3日〜6日に行われた第28回日本耳科学会 総会・学術講演会において、当教室の浦中医師がポスター賞を受賞しました。

第28回日本耳科学会ポスター賞
演題名:CT画像による鼓室内の鼓索神経の走行パターンの解析
演者:浦中司、松本有、星雄二郎、樫尾明憲、岩﨑真一、山岨達也

 

7月

  • カドヘリン11は中耳の正常発達に不可欠

 カドヘリンファミリーに属するタンパク質カドヘリン11(Cad11)は、多くの神経・脳部位に発現する細胞接着分子です。今回我々はCad11遺伝子の改変マウス(Cad11-/-マウス)を解析しました。Cad11-/-マウスは中等度難聴を示し、組織解析では中耳内容積の減少と中耳の含気化の遅れ(中耳発達の遅れ)が認められました。したがってCad11は中耳の正常発達に不可欠な分子であると推定され、このマウスはこれまで詳細が不明であった中耳奇形に伴う伝音性難聴の原因解明のための有望な手がかりとなると考えられます。

The adhesion molecule cadherin 11 is essential for acquisition of normal hearing ability through middle ear development in the mouse.
Kiyama Y, Kikkawa YS, Kinoshita M, Matsumoto Y, Kondo K, Fujimoto C, Iwasaki S, Yamasoba T, Manabe T.
Lab Invest. 2018 Jul 2. [Epub ahead of print]

  • 微弱な電気刺激による動的バランスの改善

 微弱な前庭電気刺激(ノイズGVS)が、高齢者や両側前庭障害患者の立位時のバランス改善に有効であることを報告してきましたが、今回は、このノイズGVSが、健常者および両側前庭障害患者の歩行のスピードを上げる効果もあることが明らかになりました。これは、ノイズGVSが、静的バランスだけでなく、動的バランスの改善にも有効であることを示す結果といえます。

Noisy vestibular stimulation increases gait speed in normals and in bilateral vestibulopathy.
Iwasaki S, Fujimoto C, Egami N, Kinoshita M, Togo F, Yamamoto Y, Yamasoba T.
Brain Stimul. 2018 Jul – Aug;11(4):709-715.

 

6月

  • 仮想モデルをもちいた気流解析による嗅覚最適化

 CT画像をもとに3次元モデルを構築し、Computational Fluid Dynamicsを用いて嗅裂の気流を可視化し、気導性嗅覚障害に関する検討を行いました。
 Virtual polypを作成した検討では、嗅裂前方および後方の気流路が嗅裂気流に重要であることが明らかになりました。さらに仮想鼻内副鼻腔手術による研究では、上鼻道の開放すると術後の嗅裂気流が増加することがわかりました。
 これらの検討により、嗅裂気流の確保には嗅裂の前後の開口の状態が重要であり、鼻内内視鏡手術の篩骨洞開放の際には上鼻道を十分開放すること、つまり吸気における嗅裂気流の出口、呼気における入口を十分確保することが術後の嗅覚改善に寄与する可能性が示唆されました。この研究は2017年のISIAN 1st awardを受賞しました。

Influence of the location of nasal polyps on olfactory airflow and olfaction.
Nishijima H, Kondo K, Yamamoto T, Nomura T, Kikuta S, Shimizu Y, Mizushima Y, Yamasoba T.
Int Forum Allergy Rhinol. 2018 Jun;8(6):695-706.

Ethmoidectomy combined with superior meatus enlargement increases olfactory airflow.
Nishijima H, Kondo K, Nomura T, Yamasoba T.
Laryngoscope Investig Otolaryngol. 2017 Feb 10;2(4):136-146.

  • 喫煙による嗅覚障害のメカニズム

 喫煙による嗅覚障害のメカニズムとして,タバコ煙が嗅神経上皮中の嗅覚前駆細胞にダメージを与え, 成熟嗅神経細胞数が減少し、嗅覚障害が生じることを報告してきました。今回は、加齢モデルでのタバコ煙による影響を検証し,加齢モデルではタバコ煙によりアポトーシス細胞が増えやすく、もともとの高炎症性サイトカイン状態も加わり嗅覚障害が生じることを示しました。さらに禁煙後も嗅神経細胞数が回復せず嗅覚障害が持続することがわかり、高齢者喫煙者の嗅覚障害は直りにくいことがわかりました。抗炎症治療やアポトーシス抑制剤が加齢での喫煙性嗅覚障害の治療として応用できる可能性があります。

Cigarette Smoke-Induced Cell Death Causes Persistent Olfactory Dysfunction in Aged Mice.
Ueha R, Ueha S, Kondo K, Kikuta S, Yamasoba T.
Front Aging Neurosci. 2018 Jun 13;10:183.

 

5月

  • 高齢者で嗅覚が低下する背景

 高齢者では嗅覚が低下しますが、嗅覚受容に重要な役割をする嗅神経細胞の数の低下が原因と考えられています。我々はその背景に、嗅神経細胞のもととなる嗅覚前駆細胞の分裂と分化過程の障害と、成熟嗅細胞への分化抑制があることを組織学的に証明しました。さらに網羅的遺伝子解析により,高炎症性サイトカイン・低成長因子(IGF-1)環境、および細胞外マトリックス(ECM)の減少が関連することを明らかにしました。今後、抗炎症治療や成長因子補充治療などによる加齢性嗅覚障害への治療の可能性が広がります。

Reduction of Proliferating Olfactory Cells and Low Expression of Extracellular Matrix Genes Are Hallmarks of the Aged Olfactory Mucosa.
Ueha R, Shichino S, Ueha S, Kondo K, Kikuta S, Nishijima H, Matsushima K, Yamasoba T.
Front Aging Neurosci. 2018 Mar 27;10:86.

  • 日本耳鼻咽喉科学会総会・学術講演会を開催しました。

第119回 日本耳鼻咽喉科学会総会・学術講演会をパシフィコ横浜にて開催しました。

 

2017年

12月

  • Rhinology Research Forum in Asia (RReFA) で受賞

2017/12/14-15に滋賀県大津にて行われたThe 3rd Rhinology Research Forum in Asia (RReFA) 2017にて、当教室の西嶌医師の発表がYoung Investigator Award (1st prize)を獲得しました。

Winner: Hironobu Nishijima
Title: The effects of posterior nasal neurectomy on the pathogenesis of allergic rhinitis in rat.

11月

  • 日本耳科学会で受賞

2017年11月22日〜24日に行われた第27回日本耳科学会 総会・学術講演会において、当教室の竹内医師、吉川医師が受賞しました。

第27回日本耳科学会奨励賞
論文タイトル:先天性真珠腫におけるキヌタ骨・アブミ骨病変
演者:竹内成夫、奥野妙子、吉田亜由、畑裕子

第27回日本耳科学会ポスター賞
演題名:ミトコンドリア蛍光 (mtGFP) マウスを用いた蝸牛有毛細胞内ミトコンドリア動態の検討
演者:吉川弥生、浦田真次、木下淳、山岨達也

 

9月

  • 日本鼻科学会で受賞

2017年9月28日〜30日に行われた第56回日本鼻科学会 総会・学術講演会において、当教室の菊田医師が受賞しました。

第24回日本鼻科学会賞
受賞者:菊田 周
受賞演題:Longer latency of sensory response to intravenous odor injection predicts olfactory neural disorder

  • Rhinology World Congressにおいて一等賞を受賞

2017年9月1-3日に香港にておこなわれたRhinology World Congress, 36th congress of the International Society of Inflammation and Allergy of the Nose (ISIAN) にて、ISIAN Awardの1st prizeを獲得しました。(受賞者:西嶌大宣)

The ISIAN Award the 1st prize.
Winner: Hironobu Nishijima
Title: Influence of the location of nasal polyps on the olfactory airflow and olfaction

 

7月

  • 日本DDS学会において優秀発表賞を受賞

2017年7月6日~7日に開催された第33回日本DDS学会おいて、優秀発表賞を受賞しました。

受賞者:井上雄太  受賞演題:「動的な腫瘍血管透過性(Nano eruption)の制御」

 

5月

  • 学術映画 ”Pathological eye movements as a symptoms of posterior fossa lesions”

埼玉医大名誉教授(平衡神経科)の坂田英治先生から貴重な映像をご寄贈いただきました。”Pathological eye movements as a symptoms of posterior fossa lesions”「後頭蓋窩病変の徴候としての病的眼球運動」です。47分、全編英語ナレーション付きです。ビデオ全編は掲載できませんが、冒頭40秒および内容抜粋画像をこちらに掲載いたします。ご興味のある方は耳鼻咽喉科教授室までご連絡ください。

  • 総会において宿題報告「細胞機能からみた内耳性難聴の病態とその治療」を行いました。

第118回日本耳鼻咽喉科学会通常総会・学術講演会(広島市)にて、2017年5月18日に宿題報告「細胞機能からみた内耳性難聴の病態とその治療」を発表しました。モノグラフ、および、東大耳鼻科10周年記念業績集の残部ありますので、 購入ご希望の方は、お電話でお問い合わせください。くわしくはこちら

  • オートファジーがマウスの聴覚機能に重要であることを解明

聴覚系の感覚細胞である蝸牛有毛細胞は一度障害されると機能的回復は困難であり、細胞の恒常性維持は聴覚機能に非常に重要です。オートファジーは細胞内のタンパク質やオルガネラをまとめて分解するシステムで、恒常的に細胞質成分を入れ替えることで細胞内の品質管理に貢献しています。オートファジーに必須の分子であるautophagy-related 5(Atg5)を有毛細胞にて欠損させ、オートファジーを停止させたマウスを作製したところ、先天性の高度難聴を呈し、聴毛の変性および細胞の脱落を認めました。恒常的オートファジーは聴覚機能および細胞形態の維持に重要であることを証明しました。(Fujimoto et al. Cell Death & Dis. 2017, プレスリリース, 詳細PDF)

 

2月

  • 日本頭頸部外科学会を開催しました。

第27回 日本頭頸部外科学会を京王プラザホテルにて開催しました。

 

2016年

11月

  • 微弱なノイズ電流により、高齢者の体のバランスが持続的に改善する

高齢者の前庭障害による身体のバランスの障害は、現時点で有効な治療法がありません。耳の後ろに装着した電極より微弱なノイズ電流を加える、経皮的ノイズ前庭電気刺激(nGVS)を、高齢な健常者に30分間加えたところ、刺激を停止した後も数時間にわたり身体のバランスが安定化する、という新しい現象をとらえました。この成果は、常に電流の刺激をしなくても身体のバランスが持続的に改善することを示し、nGVSの治療への応用に有効と考えられます。(Fujimoto et al. Sci Rep. 2016プレスリリース

  • 生きた細胞内のグルタチオンを可視化・定量 ~がん治療研究や創薬研究への応用に期待~

細胞には酸化ストレスへの防御機構として抗酸化物質が存在し、中でも還元型グルタチオン(GSH)が主たる役割を担っています。今回東京大学医学系研究科生体情報学教室(浦野泰照教授)との共同研究で、この細胞内GSH濃度を生細胞においてリアルタイムに定量可能な蛍光プローブを開発しました。このプローブによってがん細胞の酸化ストレス耐性機構の解明などレドックスに関する様々な知見が得られることが期待されます。(Umezawa, Yoshida et al. Nature Chem. 2016, プレスリリース1, プレスリリース2

 

10月

  • 嗅覚の障害部位の推定が可能に

嗅覚障害は、匂い分子が嗅神経に到達しないことによる「伝導性嗅覚障害」と嗅神経自体が障害をうける「神経性嗅覚障害」に分けられます。しかし、この2つの障害を検査によって区別することはできませんでした。東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科との共同研究によって静脈性嗅覚検査での潜時に着目することで神経性嗅覚障害の有無を検出できることを見つけました。今後、嗅覚障害の病態に応じた適切な治療法が選択できるようになり、新規治療法の開発も期待されます。(Kikuta, Matsumoto et al. Sci Rep. 2016, プレスリリース

 

6月

  • アレルギー性鼻炎における神経制御の解析

後鼻神経切断術の動物モデルを作成し、アレルギー性鼻炎における神経制御の解析を行いました。後鼻神経切断術により引き起こされる鼻粘膜の脱神経は、アレ ルギー性鼻炎モデルにおいては、鼻汁量抑制に効果はあるが過敏症状などの免疫反応には効果がないことを明らかにしました。この神経と免疫との関係はアレル ギー性鼻炎の病態解明の手がかりとなるものと考えられます。(Nishijima H, et al. Lab Invest. 2016)

  • 抗加齢医学会を開催しました。

第16回 日本抗加齢医学会総会をパシフィコ横浜にて開催しました。

 

4月

  • 下咽頭癌においてもFAK発現が予後バイオマーカーになりうる

手術を施行した下咽頭癌においてFAK(接着斑キナーゼ)免疫染色の結果、FAK陽性例では陰性例と比較して有意に病理学的リンパ節個数が多く、予後不良で、高率に遠隔転移が出現していた。本研究では、頭頸部癌他部位の既報と同様に下咽頭癌においてもFAK発現が予後バイオマーカーになりうる可能性を示しました。(Omura G, et al. Head Neck. 2016)

 

3月

  • 頭頸部癌に対する超選択的動注化学療法同時放射線治療の安全性を評価

超選択的動注化学療法同時放射線治療の、安全性を評価しました。2010年から2013年までに頭頸部癌に対し化学放射線同時治療をされた8000件のデータから動注群と静注群を同定し、傾向スコアマッチング法を用いて合併症の比較を行いました。治療法を選択する上で有益な情報と考えられます。(Suzuki S, et al. Head Neck. 2016)

  • タバコ煙は、嗅上皮障害後の再生を遅延させる

嗅覚障害の原因の一つであるタバコ煙が,嗅上皮障害後の再生を遅延させることを実証しました。また,タバコ煙による障害嗅上皮再生遅延にはIGF-1の低下が関与していること,IGF-1を投与することでタバコ煙による嗅上皮再生抑制効果がリリースされることを証明しました。(Ueha R, et al. Neurotox Res. 2016)

 

2月

  • ヒト固形腫瘍における新たな「がん抑制遺伝子」を発見

頭頸部癌を含むヒトの固形腫瘍において、新たな「がん抑制遺伝子」を発見しました。この遺伝子はETS転写因子ファ ミリーに属し、これまで造血器腫瘍の「がん遺伝子」として知られていたものですが、固形腫瘍においては逆にがん抑制機能をもつことを証明しました。固形腫瘍と造血器腫瘍における発癌メカニズムの差異の解明や、治療に繋がる可能性が期待されます。(Ando M, et al. Cancer Res. 2016

  • 甲状腺手術における血腫発生の時期及び危険因子

2010年から2014年までに施行された甲状腺手術5万2千件のデータを用いて、血腫発生の時期及び危険因子を明らかにしました。年齢・性・術式・BMI・輸血・抗凝固剤などが術後2日以内の血腫発生と有意な関連があり、また、血腫の20%は術後3日以降に発生していました。甲状腺手術前の情報提供の際に有益なデータと考えられます.(Suzuki S, et al. Medicine. 2016)

  • タバコ煙による嗅覚障害の組織学的なメカニズムを解明

タバコ煙は嗅覚障害の原因の一つとされていましたが、組織学的なメカニズムは未解明でした。我々は初めて、タバコ煙の長期曝露により嗅覚障害が生じること、そのメカニズムとして嗅覚前駆細胞数の低下を伴う成熟嗅細胞の減少が原因であることをマウスモデルで解明しました。(Ueha R, et al. American Journal of Pathology. 2016

  • がんに対するDDS(薬物標的治療)の効率を高める新しい腫瘍血管透過経路を発見!

DDSの効率を高める新しい腫瘍血管透過経路を発見しました。腫瘍血管が不規則に開閉し、そこから蛍光標識した高分子ナノミセルが血管外の腫瘍組織へ漏出するという、極めて動的な現象を発見しました。この現象のメカニズムを解明し活用することができれば、特に難治性腫がんに対する新しい薬物送達法の開発に繋がるものと期待されます。(Matsumoto Yu, et al. Nature Nanotechnology. 2016)  

  • 内リンパ水腫形成へのバゾプレシンの関与を証明

内リンパ嚢閉塞術を行った内リンパ水腫モデル動物にバゾプレシン2型受容体拮抗的阻害薬を投与し、内リンパ水腫が蝸牛及び球形嚢において軽減することを証明しました。内リンパ水腫形成にバゾプレシンが関与している可能性を裏付ける結果であり、メニエール病の新しい治療薬として応用できる可能性が示唆されました。
(Egami N, et al. Hear Res. 2016)

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