吸引ピストルと3Dプリンタ
甲状腺やリンパ節といった頸部の臓器・組織の穿刺吸引細胞診では、シリンジを把持し、押し子(内筒)を複数回往復させる操作が必要となり、シリンジのみでは難しいため、吸引ピストルと呼ばれる器具が良く使われてきました(文献例:甲状腺結節に対するUS guided FNAの適応とそのコツ、振動を利用した穿刺吸引細胞診による甲状腺 微小結節病変に対する有用性の検討)。
最近、筆者の外勤先で追加の吸引ピストルが必要になった際に、生産停止で困っているという話しを耳にし、3Dモデルを検索した所、既にいくつかの作例が公開されており、試しに出力した所、通常使用に耐えそうな剛性でした。
上の2つは同じタイプ、3つ目は少し持ち手が異なります。写真は上の2つのタイプです。
テーエム松井(TM matsui)の千葉大学一外科式穿刺細胞診用吸引ピストルのカタログを確認すると、「この器具自体は医療機器ではありませんので、必要に応じて病院内の倫理委員会等においてご協議の上お使い下さい。また併用する医療機器の使用目的や用途を超える場合については十分ご理解の上、使用者責任において使用して下さい。」の記載があり、今までの扱い上は医療機器では無かったことを今回初めて知りました。一般医療機器(クラスI)の場合は、製造販売にあたっては、PMDAへの届出が必要となります。この器具は非常に多くの病院で使用されているのを見ますが、倫理委員会での協議がされた事を見たことは無く、いわゆる雑貨の扱いとして、基本的に使用者責任に於いて使用されて来たようです。
本体ラベルには製作元と思われる東京永井徳隣堂本郷という記載があり、未確認ですが職人さんが高齢で退職されて生産停止という情報がありました。
今回の器具は3Dプリンタで出力可能でしたが、耳鼻咽喉科の手術で使われる鋼製小物は、現状の3Dプリンタの精度より更に高度な精細さを要求するので、職人さんの重要性は今後益々高まって来ると思われます。